菅義偉政権の発足後初の本格的な論戦の舞台となった臨時国会が、事実上閉幕した。新型コロナウイルス感染が急拡大し、国民の不安が募っているさなかに、議論の場である国会を会期延長しないまま閉じる政府、与党の判断は理解に苦しむ。[br] 2020年度第3次補正予算案と21年度予算案の編成作業が日程上の理由に挙げられたが、1次、2次補正は前通常国会の開会中に編成されており、理屈が通らない。[br] 菅首相による日本学術会議の会員任命拒否問題と、安倍晋三前首相の「桜を見る会」や吉川貴盛元農相への現金提供など、政治とカネを巡る一連の疑惑に「ふたをするためだ」と野党が批判しているのはうなずける。[br] 来週以降も閉会中審査を積極的に開き、議論を継続することが与野党に課せられた責務だ。[br] 最大のテーマは新型コロナ対策だ。感染が再び広がり、重症者が急増して死者も増えている。北海道など一部地域の医療機関は逼迫(ひっぱく)し、大阪府は独自に医療非常事態宣言を出した。菅首相が「極めて重要な時期だ」と危機感を強調した正念場で、国会が「冬休み」に入るのは無責任のそしりを免れまい。[br] 政府の緊急事態宣言の発出に関する都道府県知事の権限強化、営業と外出の自粛要請と補償の在り方の議論も中途半端なまま。新型コロナ特別措置法の改正を与野党間で議論すべきだ。[br] 観光支援事業「Go To トラベル」を巡る国と地方との連携に関する議論も混乱している。感染抑止と経済再生の両立を図ろうとする政府の対応が右往左往し、国民の不安を増幅している。国会での議論を通じて早急に整理する必要がある。[br] 政府の新型コロナ対策が実効を上げるには国民の理解と協力が不可欠であり、前提となるのが政治への信頼だ。だが、国会を軽視し議論から逃げる菅政権の姿勢が安倍前政権と同様に目に余る現状は、危機管理の障害になっているのではないか。[br] 桜を見る会前夜の夕食会費用の補塡(ほてん)に関する安倍氏の答弁が虚偽だったとすれば国会審議の土台を揺るがす。東京地検特捜部が安倍氏から事情聴取する見通しだが、捜査とは別に自ら公の場で国民に説明する責任がある。菅首相も、任命拒否は人事案件との理由で「お答えを控える」と繰り返して説明責任を逃げ続ければ、国民の支持は得られないだろう。[br] 政治の信頼を回復する最大の責務を負っているのは、一国の首相を務める菅氏と前任者の安倍氏である。