天鐘(12月5日)

英国の医学者エドワード・ジェンナーが牛痘を使った天然痘ワクチンを開発したのが1796年。それから28年後の江戸後期、この近代免疫法をロシアで身に付け、日本で初めて施術したのが青森県人だった▼旧盛岡藩だった陸奥国川内村(現むつ市川内町)出身の.....
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 英国の医学者エドワード・ジェンナーが牛痘を使った天然痘ワクチンを開発したのが1796年。それから28年後の江戸後期、この近代免疫法をロシアで身に付け、日本で初めて施術したのが青森県人だった▼旧盛岡藩だった陸奥国川内村(現むつ市川内町)出身の中川五郎治(ごろうじ)。蝦夷地に渡り択捉(えとろふ)島で漁場の番人を務めていたが、ロシア軍に襲撃されてシベリアに連行された▼捕虜になったが医師の助手をしながら牛痘種痘法を習得。捕虜交換で帰還する際、種痘書を持ち帰った。折しも松前藩は天然痘が大流行。1824(文政7)年、函館の豪商の娘に施術した種痘が日本初となった▼軽々な伝承を怖れたのか五郎治は“秘術”としたが、書物は和訳されて徐々に広まった。秋月藩医、緒形春朔(しゅんさく)の日本初は人痘によるもの。牛痘は文政6年、独国の医師シーボルトも試みたが、成功しなかった▼牛痘法の開発から実に184年後の1980年、やっと天然痘の根絶が宣言された。人類が封じ込めた感染症は今も天然痘だけだが、研究者の執念と被験者の理解があったればこそ。施術される方もする方も怖い▼米ファイザーが開発した新型コロナワクチンが英国で承認され、来週から接種が始まる。他社も追随しており、第3波にもがく我々にも朗報。日本でも本年度内の予定だ。暗澹(あんたん)たるコロナ雲を払い除け、早く春の陽光を全身で浴びたいものだ。