る 新型コロナウイルスの世界的な感染が再拡大している中、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長が来日し、政府、大会組織委員会などと協議して来年夏に延期した東京五輪を必ず開催すると確認し合った。感染収束の見通しが立たないだけに、「コロナ禍の五輪」の強行開催にはクリアすべき課題が山積している。[br][br] バッハ会長は菅義偉首相との会談で五輪・パラリンピックの安全な開催に向けて緊密に協力することで一致し、懸案である観客の取り扱いについて「スタジアムに観客を入れることに確信を持つ」と踏み込んだ。[br][br] IOCの自信の背景には、日本政府が主導して進めている大会での感染症対策への一定の信頼感があるようだ。参加選手・役員らの入国時の防疫措置、宿舎・輸送・会場での感染防止策、検査・医療態勢などできめ細かい対応策を検討している。[br][br] ワクチン開発の進捗(しんちょく)もプラス材料だ。バッハ会長は、参加選手のワクチン接種費用はIOCが負担する方針も示した。1年延期された五輪をなんとしても開催したい、との意欲がにじむ。「安心・安全な五輪」をアピールすることで、五輪への投資効果に疑問を抱き始めているスポンサーへの配慮もあろう。[br][br] 日本国内では今月、コロナ禍では初めての国際競技会として体操の大会が開かれた。選手に連日のPCR検査を行い、行動制限も課して無事に終了し五輪のテストケースとも言われた。ただ五輪は比較にならない巨大イベントで、同様の措置を徹底するのは至難だ。[br][br] 選手・役員は1万数千人、ボランティアは10万人以上になる。入国制限を緩和して海外からも観客を受け入れるとなると、施せるのは入国時の検査と会場での検温くらい。観客の行動制限は不可能だ。適切な観客数設定も判断が難しい。検討中のコロナ対策では、すべてをカバーし切れないのも事実である。[br][br] 感染拡大が続き各競技の地域予選や選考競技会も進んでいない。世界に感染が広まった今春は、練習も十分にできない選手側から「リスクを冒して参加はできない」との声もあがって、1年延期が決まった。今後さらに事態が悪化し再び選手から参加を危惧する声が出れば、開催方針は窮地に追い込まれよう。[br][br] 感染の「第3波」で国民の不安は募っている。こうした状況下で五輪・パラリンピックを開催することにどれほどの支持があるだろうか。政府や大会組織委は、選手だけでなく開催地市民の懸念も払拭(ふっしょく)する必要がある。