【ハンター記者体験記】(1)デビュー 思わず「ごめん」命に感謝

解体したシカの亡きがらに手を合わせる記者(左)とリーダー
解体したシカの亡きがらに手を合わせる記者(左)とリーダー
青森県のニホンジカ猟が解禁となった11月1日、本年度わな猟免許を取得した農業担当の記者(39)は、ハンターデビューを果たした。八戸市の3人でチームを組んで活動し、鹿1頭を初めて捕獲。初回はほとんどの作業をリーダーに頼ることとなり、安全確保の.....
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 青森県のニホンジカ猟が解禁となった11月1日、本年度わな猟免許を取得した農業担当の記者(39)は、ハンターデビューを果たした。八戸市の3人でチームを組んで活動し、鹿1頭を初めて捕獲。初回はほとんどの作業をリーダーに頼ることとなり、安全確保の面でも反省点があったが、食や命について考えさせられる貴重な経験だった。[br][br] 農作物への被害抑止に貢献し、おいしいジビエも味わいたい―。そんな思いから狩猟に興味を持ち、県猟友会に加入した。チームのメンバーは、八戸市森林組合業務課長の工藤義治さん(46)と、ワーキングマザーのK子さん(42)。唯一の経験者でわな歴2年の工藤リーダーが初心者2人を率いる、フレッシュなチームだ。[br][br] 全国では、野生鳥獣による農作物被害のうち、鹿やイノシシが6割を占める。県内ではいずれも絶滅したとされていたが、近年は出没が増え、農業被害も出始めている。今後も影響拡大が懸念されることから国も対策に本腰を入れ、11月から来年3月まで、鹿・イノシシの集中捕獲キャンペーンを実施中だ。[br][br] 10月中旬、3人で顔を合わせ、リーダーが選んだポイント数カ所を下見した。新しい足跡が残り、頻繁な往来を示す獣道も複数ある。近くの沢を水飲み場にしているようだ。リーダーのくくりわなで設置の練習をし、猟期に備える。[br][br] 解禁日は快晴。午前中に4カ所で計12基のわなを仕掛けた。翌朝は手分けして見回り。発情期を迎えた雄の鳴き声が「ピーッ」と山から響き、期待と不安の両方が心の中を去来する。[br][br] 1カ所目は変化がなく、2カ所目に近づいた時だった。ガサッ。生き物の気配を感じ、鼓動が早まった。こちらを見詰める二つの黒い瞳。「わっ、いた」と声が漏れた。動揺して何もできず、写真を撮るのも忘れて車に戻った。[br][br] わなに掛かったのは推定2歳の若い雌。合流したリーダーが前後の脚を縛り動きを封じた。ついにとどめを刺す「止め刺し」だ。体を固定しようと近づくと、おとなしかった鹿が突然後ろ脚を蹴り出し、記者の顔面をかすめた。肝を冷やすと同時に必死さが伝わり、心がかき乱される。[br][br] 「ごめんね」。リーダーがナイフで心臓をひと突きする瞬間、思わず声が出た。鹿は「ピャッ」と鋭く鳴いて地面に崩れ落ち、間もなく動かなくなった。鹿は体温が高いため、血抜き後はスピード勝負。どんどん解体し、肉を入れたビニール袋を水槽に浸した。[br][br] 精神的にも肉体的にもハードな解体を経験し、食肉として流通している家畜の命に無自覚だったことを申し訳なく思った。[br][br] 「命をありがとう」。トマト煮込みとステーキになった鹿肉は軟らかく、滋味深い味わいだった。 [br][br] ◇………………◇[br] 今シーズンからハンター活動を始めた記者が体験を通じ、初心者の視点から、農業や食、ライフスタイルなどについて感じたことを紹介する。[br]※次回以降は毎週月曜日のくらし面に掲載解体したシカの亡きがらに手を合わせる記者(左)とリーダー