天鐘(10月21日)

「辱知(じょくち)(知り合いの意)猫儀久々病気の処(ところ)、療養相叶(かな)わず、昨夜(中略)逝去致し候」。夏目漱石の処女作『吾輩は猫である』の主人公「猫」の逝去を知らせる死亡通知だ。漱石が葉書にわざわざ黒い枠を塗り、友人知人に送った▼有.....
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 「辱知(じょくち)(知り合いの意)猫儀久々病気の処(ところ)、療養相叶(かな)わず、昨夜(中略)逝去致し候」。夏目漱石の処女作『吾輩は猫である』の主人公「猫」の逝去を知らせる死亡通知だ。漱石が葉書にわざわざ黒い枠を塗り、友人知人に送った▼有名な“猫の死亡通知”で、ユーモアに富んだ漱石ならではの発案である。この初代から3代までの“猫列伝”もある。新宿の山房には立派な猫供養塔も建てられた▼愛猫家と思いきや、初代は野良で猫嫌いの夫人が何度つまみ出しても棲(す)み着いた。漱石も物差しを手に追いかけ回し、2代目は誤って踏み殺している。「可愛がっても憎がってもいなかった」(『硝子(ガラス)戸の中』)▼猫は群れる犬と違い、邪魔を嫌って気ままな単独行動を好む。夏目家はデレデレの猫可愛がりはせず、互いに付かず離れずの“ツンデレ”で、猫同士のような関係だった。双方マイペースでいられたのだろう▼犬派と猫派の意識調査は大概が犬に軍配が上がる。犬の「人懐っこさ」に対し、猫の「自分勝手さ」と理由は真逆。だから初対面の猫と仲良くなれた時の嬉しさは格別だ。自由奔放な猫が懐(なつ)いてくれるのだから…▼英国サセックス大の研究チームがゆっくり瞬(まばた)きすれば猫が心を許すことを実証した。人との付き合いの中で獲得した適応力らしい。夏目家の猫も実は優しい瞬きを見逃さず、夫妻の心を見透かしていたのかもしれない。