経済産業省がエネルギー基本計画の来年改定を見据えた議論を始めた。現行計画で掲げる電源構成比率の見直しが焦点だ。特に世論の不信感が根強い原子力を巡り、安倍前政権は課題を先送りしてきた印象が強い。国の中長期的なエネルギー政策の指針となるだけに、初の改定に臨む菅政権がどこまで踏み込むか注視したい。[br][br] 原発で20~22%を目指す現在の目標を達成するには20~30基の運転が必要とされるが、原子力規制委員会の審査をクリアし再稼働したのは9基にとどまる。老朽原発の淘汰も進み、東京電力福島第1原発事故後に21基の廃炉が決まった。原則40年の運転ルールに照らせば、今後も「分母」は減り続ける。[br][br] 新増設も容易ではない。こうした状況で「重要なベースロード(基幹)電源」とされる原発は持続的な役割を果たせるのか。改定議論を進める有識者会議の委員からは「(運転限度の)60年に延長しても選択肢になり得ない」との声が上がる。[br][br] もっとも、別の委員は「原発を使い続けるなら第一に信頼回復が必要」と指摘する。国際的な潮流である脱炭素社会の実現に向けて原発活用を求める声も多い中、この指摘は議論の前提として再認識する必要がある。[br][br] 原発依存度を低減させる方針を踏襲した場合、核燃料サイクルの在り方も問われる。原発が縮小の方向に向かえば、使用済み核燃料再処理工場(六ケ所村)で新たにプルトニウムを取り出す意義は薄れる。既に40トン超を保有する日本では、原発の燃料として再利用するプルサーマルが停滞。軍事転用も可能なプルトニウムの大量保有に国際社会が厳しい目を向けている。[br][br] 政府は一貫してサイクルを推進すると強調するが、肝心の高速炉は実用化の目標時期が今世紀後半に後退。他方で推進の名目となる「エネルギーの安全保障」に関しても、その確立に向けて生じる約14兆円もの国民負担に疑問の声は絶えない。[br][br] 青森県内では夏以降、立地するサイクル関連施設が次々と審査のヤマ場を越えた。ただし、プルサーマルの位置付けや見通しが不明確なままでは将来、操業の是非を判断する際の成熟した議論につながらない。そこを曖昧にして責任だけを地元に押し付けることは許されない。[br][br] 高レベル放射性廃棄物の最終処分問題も新たな局面を迎えた。今回の改定議論を通じて原子力が内包する課題を洗い出し、現実に即した対応を打ち出すべきだ。目を背けても問題は何一つ解決しない。