天鐘(10月16日)

俳人・楠本憲吉の魚の食べ方は徹底していたそうだ。身をきれいに平らげたあとは骨に湯を掛けスープとして味わう。骨をしゃぶり、最後は猫に。そこまでいけば食われた魚も本望だ▼大阪の料亭に生まれ、子供のころから食事の作法をしつけられた。魚を残したりす.....
有料会員に登録すれば記事全文をお読みになれます。デーリー東北のご購読者は無料で会員登録できます。
ログインの方はこちら
新規会員登録の方はこちら
お気に入り登録
週間記事ランキング
 俳人・楠本憲吉の魚の食べ方は徹底していたそうだ。身をきれいに平らげたあとは骨に湯を掛けスープとして味わう。骨をしゃぶり、最後は猫に。そこまでいけば食われた魚も本望だ▼大阪の料亭に生まれ、子供のころから食事の作法をしつけられた。魚を残したりすれば祖母に叱られた。「そんな食べ方ではお魚は成仏しまへんで」。言いつけをしっかり守ってきたらしい▼楠本ほどではないにしろ、魚の食べ方にこだわりを持つ人は多い。今ならサンマのはらわたのうまさを熱く説く。その一方で、どうにも箸使いの苦手な方も。失礼ながら、これでは魚は成仏できまいと思う皿も少なからず見かける▼食べることで難儀するのだから、自ら捌(さば)くとなればなおさらだ。〈刺す焙(あぶ)る殺す吐かせる削(そ)ぐ締める荒事ならで厨(くりや)の言葉〉久々湊盈子。まな板の上の生々しき光景。魚に触れない人も増えた▼日本人の魚離れが言われて久しい。生臭い、処理が面倒、料理のバリエーションに乏しい等々。一日中働く女性が増え、買い物では日持ちしない食材は敬遠されがちとの分析もある。ともあれ、かくして魚と食卓との縁は遠くなる▼10月は「魚食普及月間」。食欲の秋に海の恵みのありがたさと伝統の食文化を見つめ直したい。スーパーには旬の魚たち。♪魚、魚、魚、魚を食べると頭が良くなる~。宣伝の歌に誘われる。当方、既に手遅れではあるが。