菅義偉首相が少子化対策の目玉として掲げた不妊治療への公的医療保険の適用。現在は経済的な負担が大きいだけに朗報だが、治療には一人一人の状態に合わせたきめ細かさが必要なため、制度設計では丁寧な議論を求めたい。[br] 不妊治療の体外受精は2018年で約45万件あり、約5万7千人の子どもが誕生している。同年に生まれた約16人に1人の割合だ。体外受精のほかにもさまざまな治療法があり、厚生労働省の調査では20~40代の夫婦で検査や治療の経験があるのは2割近くに上る。[br] 大きな課題は高額な費用がかかることだ。不妊治療の中で公的医療保険の対象になるのは、不妊の原因検査や一部の治療だけ。体外受精や顕微授精といった高度な治療は保険の対象外で全額自費になる。[br] 費用は医療機関によって異なり、支援団体の調査では例えば体外受精の1回当たりの平均額は「50万円以上」が4割を占めた。何回も繰り返すうちに総費用が200万、300万円を超える場合も多いため、負担が重荷になって治療自体をためらったり、継続するのをあきらめたりしてしまう人も少なくない。[br] 初回の治療で30万円、2回目以降は15万円を最大6回まで支給される国の助成制度があるものの、夫婦合わせた所得が年730万円未満などの制限があって、使い勝手がいいとはいえないのが実態だ。保険適用になれば、3割の自己負担で、標準的な治療がどこでも同じ価格で受けられるようになる。大幅に取り組みやすくなるのは間違いないし、期待もされている。[br] ただ懸念もある。治療に通う回数や薬の量、種類などは人によって違うため、それぞれに合った治療法が重要だが、保険の適用で治療内容が画一化されると個別の柔軟な対応ができなくなる恐れがある。保険での価格が低く抑えられると、治療の質の低下にもつながりかねない。[br] 保険適用には審議会の議論が必要なため、実現は早くて22年度になるとみられている。厚労省は今後、治療実態の調査などを進める予定だ。ぜひとも当事者の声も十分に反映させ、みんなが納得できる制度設計にしてもらいたい。[br] 不妊治療のつらさは成果を得られるとは限らないことだ。親や職場の同僚にも言えず、ひそかに続ける人も多い。このため、保険適用とともに精神的な支援体制や休みを取りやすくするなど治療と仕事を両立させるための働き方改革を含めた幅広い環境整備も必要だ。