天鐘(10月15日)

わが家には電気炊飯器が存在しない。数年前に故障してから買い換えていない。急場しのぎのつもりで手持ちの鍋で炊いたところ、「ふっくらしている」と家族に大好評。すっかり日々の暮らしに定着してしまった▼稲作文化が根付く日本の台所に革命をもたらした文.....
有料会員に登録すれば記事全文をお読みになれます。デーリー東北のご購読者は無料で会員登録できます。
ログインの方はこちら
新規会員登録の方はこちら
お気に入り登録
週間記事ランキング
 わが家には電気炊飯器が存在しない。数年前に故障してから買い換えていない。急場しのぎのつもりで手持ちの鍋で炊いたところ、「ふっくらしている」と家族に大好評。すっかり日々の暮らしに定着してしまった▼稲作文化が根付く日本の台所に革命をもたらした文明の利器。奥さま方の睡眠時間が1時間増えたとも。今も売り場で見掛けると心が動く。だが全てが簡略化された現代にあって、多少の不便は新鮮でもある▼新米の季節になった。買い置きがなくなったのを機に購入。保存技術の発達によって古米も遜色なくおいしいが、それでも旬の炊きたての香りとつやは格別だ。さらなる高みを求めて次なる挑戦は土鍋である▼「はじめちょろちょろ中ぱっぱ…」。熱しにくく冷めにくい特性から火加減の極意を自然に可能とする。遠赤外線効果で熱の伝わり方にムラがない。だから粒が立ち、ふくよかに仕上がる▼土鍋は「育てる」のだという。お粥(かゆ)でひびを埋める。優しく洗って乾燥させる。確かに手間はかかる。一方、使い込むほどに出汁(だし)が染みて味が出る。名店になると、ご飯と水、少しの醤油(しょうゆ)で絶品の雑炊ができるというから驚きだ▼焼き物の歴史をたどれば縄文時代に行き着く。古(いにしえ)の人々も炉を囲んで土器で煮炊きをしたのだろうか。炊・煮・焼・蒸・炒に万能な土鍋は、やはり食卓の中心が似合う。寒さが深まる。心も温めたい。