菅義偉首相は、日本学術会議が推薦した新会員候補105人のうち、6人の任命を拒否した。推薦を受けながら任命しなかったのは、2004年度に現行制度になって以来、初めてだ。[br] 学術会議は日本を代表する学者の組織であり、独立性と自律性は最大限尊重されなければならない。人事への政治介入は学問の自由を脅かす。菅首相は直ちに6人を追加任命すべきだ。[br] 学術会議は、科学者が戦争に協力した反省に立ち、戦後間もない1949年に日本の平和的復興と学術の進歩への寄与などを使命に、日本学術会議法に基づいて設立された。首相が所轄するが、政府から独立した特別の機関として活動している。[br] 210人の会員は特別職の国家公務員で、学術会議が候補者を推薦し、首相が任命する。任期は6年で、3年ごとに半数が交代する仕組みだ。[br] 政府は衆参両院の内閣委員会で「個別の人事」として拒否理由を明確に説明せず、83年の「推薦していただいた者は拒否しない」との国会答弁との整合性に関しても、法解釈の変更を否定した。学問と思想、表現の自由が侵害されるとの懸念が広がっている重大な事態だ。説明責任を果たそうとしない菅政権の姿勢では、国民の納得は得られないだろう。[br] 政府は任命基準として「専門領域での業績のみにとらわれない総合的、俯瞰(ふかん)的観点」を考慮する考え方を示した。2015年の有識者会議の提言を踏まえたものだ。第2次安倍政権が12年の発足時から、学術会議の人事に問題意識を持っていた根深い背景も浮き彫りになってきた。[br] 16年と18年の補充人事では、首相官邸が候補者の任命に難色を示し、補充されない事例があった。17年と今年には、改選定員を上回る人数を推薦するよう要請。内閣府は、推薦通りに任命する義務はないとする内部文書を18年に作成していた。[br] 任命拒否された6人は人文・社会科学系の専門家ばかりで、改憲や特定秘密保護法、安全保障関連法、共謀罪の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法など、安倍前政権が進めた重要施策に反対や異論を表明してきた。[br] 学術会議も17年に声明を出し、防衛省が助成する「安全保障技術研究推進制度」への協力に歯止めをかけるよう大学などに呼び掛けていた。[br] 菅首相は、任命拒否は「学問の自由とは全く関係ない」と語ったが、経過を振り返れば強弁としか受け取れない。首相は前例を踏襲しなかった意図と経緯と理由を丁寧に説明すべきだ。