ロシアが内政外交で難題に直面している。プーチン大統領は2036年までの続投を可能とする憲法改正を全国投票で成立させたばかりだが、安泰とは程遠い状況が夏以降、続く。[br] 象徴的なのは、政権幹部らの汚職疑惑を追及する反体制派ナワリヌイ氏が神経剤ノビチョク系の猛毒で襲われた事件だ。シベリア・トムスクからの機内で体調が急変した同氏は最終的にドイツの病院に搬送され、一命を取り留めた。[br] ドイツは問題の物質が使われた「疑いのない証拠」を検出したとし、メルケル首相自らが「毒殺未遂」と発表。さらにロシア産天然ガスを自国に送る完成間近の海底パイプライン事業「ノルドストリーム2」の見直しも排除しないとする厳しい姿勢を示した。[br] 客観的分析で知られるロシアの国際政治学者ドミトリー・トレーニン氏はこの事件で冷戦終結に伴う東西ドイツ統一以来構築してきた両国関係が「転換点」を迎え、対ロ関係で果たすドイツの特別な役割は「過去のものとなった」とまで指摘した。だとすれば、対西側関係では相当な打撃だ。[br] 特別な機関でなければ扱えない毒物が使われた今回の事件について、ロシアは関与否定に終始するのではなく、事件解明に真摯(しんし)な取り組みを求めたい。そうでなければ対外的な信頼は失墜するばかりだ。[br] ナワリヌイ氏の事件は地方選と関連しているかもしれない。9月の統一地方選ではいくつかの都市でナワリヌイ派候補が善戦、政権与党候補を敗退させた。体制外野党に出馬の機会さえあれば、政治の舞台に進出する可能性は否定できない。当局が同氏を恐れるのはそのためだ。[br] 自国が勢力圏とみなすベラルーシでも、同国内の反大統領派への扱いが問われる。大統領選の投票不正を追及、ルカシェンコ氏に退陣圧力を強める市民の抗議行動に対し、ロシアは再選を支持、真っ向から対立する。だが「西側の関与による政権交代の試み」という論法で抗議を退け、軍事的威圧を加える旧来の対応で解決するはずもない。[br] プーチン氏はルカシェンコ氏との会談で、国外からの助言や圧力ではなく、ベラルーシ国民自身が対話を通じて混乱を収めるべきだと述べた。[br] そうであれば、圧力による干渉は避けなければならない。有言実行が問われる。「対話」に導くことこそロシアが果たすべき役割だろう。主導権が発揮できなければ、ベラルーシ国民のさらなる離反を招くことになる。