安倍晋三首相の後継を決める自民党総裁選は、菅義偉官房長官が対立候補の岸田文雄政調会長、石破茂元幹事長に圧勝した。告示前に党内最大派閥の細田派など5派が菅氏支持を打ち出し、7割を超える国会議員が菅氏に投票、派閥主導の総裁選だった側面は否めない。[br] 菅氏は16日に国会で首相に指名され、組閣を行う。自民党役員人事で再任が有力視されている二階俊博幹事長を含め、支援を受けた派閥からの“人事圧力”を抑え「菅色」をどれだけ出せるのかが当面の試金石だ。[br] 総裁選は全国一斉の党員・党友投票が見送られ、各都道府県連3票ずつの地方票より国会議員票の比重が高かった。それでも44都府県で予備選を実施。注目された結果は秋田県の農家生まれで地方重視をアピールした菅氏が好感を持たれたのか、過去に党員票で強みを発揮した石破氏を2倍以上引き離した。[br] 本来の政策論争が脇に置かれ「勝ち馬」に乗ろうとの思惑が先行した中で、候補者の違いが目立ったのは「安倍1強政治」に対する評価だ。石破氏が方針転換を、岸田氏が一部修正を訴えたのに対し、菅氏は継承を前面に打ち出した。[br] しかし、国民意識とずれていた感じがしてならない。総裁選告示直後に行った共同通信社世論調査では、アベノミクスを「見直すべきだ」との回答が58・9%に達した。安倍氏が執念を燃やしていた憲法改正についても「引き継ぐ必要はない」が過半数を上回った。[br] 森友・加計学園、桜を見る会疑惑など安倍政権の「負の遺産」に関し、菅氏は基本的に決着済みとの立場を強調した。ただ「丁寧に説明する」と繰り返しながら、説明責任を十分に果たさなかった安倍首相の手法まで引き継ぐのだろうか。真相究明などを求める国民の声に、耳を澄ます真摯(しんし)な対応を求めたい。[br] 菅氏の任期は安倍首相の残余期間である来年9月までだ。菅氏は出馬表明後「新政権は暫定ではない」と述べたが、「縦割り行政打破」の主張を除いては、安倍内閣の成果を強調する姿ばかりが目立った。発言を修正する場面も複数回あり「本格政権」の風格に乏しいという印象が残った。[br] 自民党内では、新内閣への審判を仰ぐため、早期の衆院解散・総選挙論が高まっている。一方、公明党は新型コロナウイルス対策を優先すべきだとして反対する構えだ。「状況次第」「コロナ優先」などと発言を微妙に変えている菅氏の最終的な判断が焦点となる。