天鐘(8月27日)

八戸花火大会を高台から観賞した。会場からかなり離れているのに見物客が少なくない。やはり人気は根強い。「地域に元気を」。もやで見えにくかったものの、関係者の情熱は届いた。大輪の滴に想いを重ねる▼打ち上げ花火に触発されたのか、足元では秋の虫たち.....
有料会員に登録すれば記事全文をお読みになれます。デーリー東北のご購読者は無料で会員登録できます。
ログインの方はこちら
新規会員登録の方はこちら
お気に入り登録
週間記事ランキング
 八戸花火大会を高台から観賞した。会場からかなり離れているのに見物客が少なくない。やはり人気は根強い。「地域に元気を」。もやで見えにくかったものの、関係者の情熱は届いた。大輪の滴に想いを重ねる▼打ち上げ花火に触発されたのか、足元では秋の虫たちが大合奏。厳しい残暑が続いているとはいえ、朝晩はだいぶ涼しくなった。コロナ禍でも季節は巡る。夏と秋の風物詩の競演に思わず表情が緩んだ▼〈夕月夜心もしのに白露の置くこの庭にこほろぎ鳴くも〉。その風情は最古の和歌集『万葉集』にも編まれた。野に出て耳をそばだてたり、かごに入れて愛(め)でてみたり。いにしえの人々もまた秋の夜長を楽しんだ▼花見ならぬ「虫聴き」が流行。薄明かりの下で、「月鈴子(げつれいし)」の異名を持つスズムシが奏でる美音を味わった。コオロギは「綴(つづ)れ刺せ」とも。秋の深まりを感じながら、着物のほころびを縫い直して冬に備えた▼虫時雨を現代風に解釈すれば大自然のオーケストラか。マツムシやキリギリスも首席奏者に名を連ねる。じっくりと拝聴すると、羽音が奥行きを伴って響いてくる。静寂を際立たせる穏やかな多重奏が心地良い▼虫が群れて鳴くのは「集(すだ)く」。元々は多くのものが集まり、にぎやかな様を指す言葉だという。日常生活の見直しと数々の制約を強いられたまま迎えた早秋である。優雅に鳴く秋虫が少しうらやましい。