天鐘(8月23日)

細い枝を緩やかに垂れる柳は街路樹としても人気だ。銀座の柳は歌にもなった。この時季なら、吹き来る風にふわりと枝を揺らして、一時の涼しさを運んでくれる▼柳のたたずまいは人生にも例えられる。仙厓(せんがい)和尚に〈気に入らぬ風もあろうに柳かな〉が.....
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 細い枝を緩やかに垂れる柳は街路樹としても人気だ。銀座の柳は歌にもなった。この時季なら、吹き来る風にふわりと枝を揺らして、一時の涼しさを運んでくれる▼柳のたたずまいは人生にも例えられる。仙厓(せんがい)和尚に〈気に入らぬ風もあろうに柳かな〉がある。生きていれば予期せぬ困難も降りかかる。枝を張り、堪えるだけでは折れてしまう。柔らかく、しなやかに受け流してこその強さもある▼先日亡くなった俳優渡哲也さんの後半生を思う。何度も大病に襲われた。大河ドラマの途中降板、がん宣告に流した涙。つらい思いを繰り返し、たどり着いたのが「柳に風」の境地だった▼柏木純一さんの著書『渡哲也 俺』に、その思いがつづられる。病気は自分ではどうにもできない。ならば、それを天命と受け止める。目指した生き方は“自分流”。与えられた仕事は常に「これが最後」の覚悟で臨んだそうだ▼被災地での炊き出しや小児がんの子たちとの交流。人の痛みに寄り添えたのは、その痛みを自らが知るからだろう。大スター亡き後の会社を困難承知で引き受けた。一度決めたら一途である▼流れる雲を人生に例えた。たき火が好きで、一筋立ち上る煙をよく眺めていたという。寡黙に、男臭く貫き通した自然体。夏は茂って日陰を作り、冬は葉を落とした枝の下の日だまりが温かい。優しい柳の風情に、あの渋い笑顔が重なってくる。