大国ロシアと欧州連合(EU)のはざまに位置するベラルーシの大統領選で、「欧州最後の独裁者」と称され、君臨してきた現職ルカシェンコ大統領が6選を果たした。[br] 中央選管の暫定集計では80%超の得票率で圧勝したが、この結果を巡って、大規模な不正操作があったとして、首都ミンスクはじめ全土で市民の広範な抗議行動が発生、治安当局との街頭衝突に発展した。[br] ソ連崩壊後の1994年から25年以上にわたり強権統治を行ってきたルカシェンコ氏だが、猛烈な逆風にさらされている。ロシアや中国は祝電を送ったが、政権批判の高まりが直ちに沈静化する兆しはない。米国やEUも選挙の公正さに疑義を呈していることから政治混迷の危機がさらに深まる恐れもある。[br] 今回の大統領選で政権側は主要な対立候補の出馬を封じ込めた。その一人が地元のロシア系大手銀行で長年トップを務めたババリコ氏だ。ロシアの調査会社によると、選挙前に、ルカシェンコ氏の8倍の支持を集め、ルカシェンコ氏の6選支持は4%弱だったとも伝えられた。政権側が脅威を感じたようだ。[br] 大統領選に出馬した政治経験もない無名の主婦で元通訳のチハノフスカヤ氏は、政権批判運動の中心的存在だった映像ブロガーの夫が拘束されたため、身代わりで立候補、公正な投票を訴えた。ババリコ氏らの支持を受け、反政権票の大きな受け皿となり、鬱積(うっせき)した体制不満の広がりも見せた。[br] しかし、暫定集計では10%強の得票にとどまり、「選挙結果を認めない」と表明、あくまで再選挙と平和的な政権交代を求める構えだ。[br] ルカシェンコ政権は、長期政権を退陣に追い込んだウクライナなどの民衆蜂起を念頭に、政権批判運動に対し「さらなるカラー革命」は許さないとし、国外からの「策謀」と非難した。[br] さらに今回は7月末にロシア民間軍事会社の雇い兵33人を拘束し、「ベラルーシの不安定化が狙いだ」と主張。ロシアの干渉まで印象付ける戦術に出た。巧みな駆け引きで東西間のバランス外交に腐心してきたルカシェンコ氏だが、国外干渉論を持ち出し、自らの失政を覆い隠そうとしたのである。[br] 2015年ノーベル文学賞のベラルーシ作家アレクシエービッチ氏は「ルカシェンコの時代は終わった。市民は選択のできない国で生きることをもはや望んでいない」と民意を代弁する。混迷打開には市民との対話の道を探る以外にない。