新型コロナウイルスの感染者「ゼロ」が続いていた岩手県で、7月末から感染確認が相次いでいる。東京など都市部を中心に感染が再拡大し、地方にも広がりを見せる中、岩手も例外なく全国的な大波の中にいることが浮き彫りになった。[br] 7月29日の県内初確認からPCR検査の陽性反応が続き、8月6日には県北地方で初めて久慈市の女性の感染が判明した。感染者の行動歴を見ると、関東地方の友人と一緒に行動したり、県外の取引先を交えた会食をしたりと、いずれも県外由来をうかがわせる。[br] 幸いなのは、感染者からの広がりが抑えられている点だ。感染者の濃厚接触者らのPCR検査で、陽性反応が出たのは久慈の家族1人にとどまっている。マスクの着用やこまめな手洗いなど、県民の基本的対策の効果がうかがえる。[br] 県は感染未確認の期間を生かし、患者発生に備えてさまざまな体制を整備してきた。[br] 課題となっていたPCR検査能力は、民間検査機関の稼働や院内で検査できる医療機関の拡大などにより、8月末までに1日当たり最大864件まで実施可能となる見込み。これにより、県内の感染ピーク時に想定される同444件の検査数にも対応できる。[br] 感染の疑いがある人から検体を採取しPCR検査する「地域外来・検査センター」は、県内九つの2次医療圏全ての計10カ所に設置し、地域ごとに検査態勢を強化。実際に宮古市のセンターで県内2例目の陽性を検出した。[br] 医療体制をめぐっては、大規模なクラスター(感染者集団)の発生も想定し、即時受け入れ可能な感染症病床を150床程度確保。軽症者向けの宿泊療養施設85室も用意した。[br] 県は感染のまん延期には患者(療養者)数が最大で379人に上ると試算している。その際は県全体で病床を350床に、療養施設を300室にそれぞれ拡大して対応する計画だ。[br] 未確認期間中に着々と準備を進めてきた一方で、ゼロであるが故の苦悩もあった。「県内初の感染者になりたくない」との思いから、県民の受診控えなどが続出。達増拓也知事は「第1号になっても責めない」「具合が悪い時は受診して」などとメッセージを送り続けた。[br] ゼロの重圧がなくなったこれからが、むしろ岩手の“本番”であろう。必要に応じて追加対策を講じ、感染防止対策と社会経済活動を両立できるよう努めてほしい。