地層処分の実施主体として使命を果たすべく、最終処分場の設計、建設、操業、閉鎖に関する技術開発と処分場の候補地選定に向けた対話型全国説明会などの情報発信という二つの取り組みを進めている。[br] 技術開発では、国内の代表的な地質環境で長期間にわたる地表のリスク評価結果を取りまとめた。国内の専門家のレビュー(評価)がほぼ終了しており、年内に海外専門家のレビューを終えたいと考えている。[br] 国が3年前に公表した科学的特性マップに基づいた説明会は、感染症の影響で中断する前の2月末までに117回開催した。参加者の半数は安全性に否定的な意見だが、終了後に意見が変わった人もいる。[br] 東京電力福島第1原発事故で事業者の安全確保能力への信頼は失われた。過去の反省の上にどう事業を進めるかを伝える対話活動を続けていくことが大切だと職員には伝えている。[br] 処分地が決定しているフィンランドでは、ソ連崩壊で使用済み燃料の引き取り保証がなくなり、選定作業が始まった。地質環境が広範囲にわたって均一だったため、およそ100の自治体に調査を打診し、環境影響調査が各地で行われた。[br] 一方、日本ではマップで緑色に塗られた(好ましい特性を確認できる可能性が相対的に高く、海上輸送の利便性がある)グリーン沿岸部の自治体は約900。[br] 法律上、概要調査などを経て処分する地点を決めると定められているわけだが、現実問題として900の地点での調査は費用と時間の面で難しい。国内の処分地選定は数カ所に手を挙げてもらって、調査し交渉する方法が合理的だ。 [br] (2007年に一度名乗りを上げ、その後に取り下げた)高知県東洋町はサーフィンの名所で、人が来なくなるという心配の声があった。致し方ないことではあるが、原子力への不安に目を付けて地域社会の営みへのネガティブなイメージが流布された場合に重要となる、正しい情報発信にも取り組む必要がある。[br] 六ケ所村で一時貯蔵されている海外からの返還ガラス固化体の保管期限が少なくなる中、事業が進展していない状況への叱責を受ける。加えて、使用済み核燃料再処理工場がフル稼働すれば年間約千本のガラス固化体が出る。決してあきらめず、毎年1センチでも歩みを進めることがわれわれの取り得る唯一の道だ。[br][br] 【略歴】こんどう・しゅんすけ 1970年、東京大大学院工学系研究科博士課程(原子力工学専攻)修了。工学博士。84年以降、東大工学部で原子力分野の教授を務め、99年には東大原子力研究総合センター長に就いた。東大名誉教授。2004年1月から約10年間、内閣府の原子力委員会委員長として原子力政策の議論を主導した。14年7月から現職。78歳。北海道出身。