天鐘(8月5日)

暑さが戻ってくるのを待っていたかのように、何人かの知り合いから暑中見舞いのはがきが届いた。涼しげなイラストに添えられた、直筆のちょっとしたメッセージがこの時季はうれしい▼暑中見舞いの起源をたどると、江戸時代にさかのぼる。年の節目であるお盆に.....
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 暑さが戻ってくるのを待っていたかのように、何人かの知り合いから暑中見舞いのはがきが届いた。涼しげなイラストに添えられた、直筆のちょっとしたメッセージがこの時季はうれしい▼暑中見舞いの起源をたどると、江戸時代にさかのぼる。年の節目であるお盆に、贈答品を携え家々を回った武家たちの習慣が始まりらしい。時節のあいさつと共に、先方の健康を気遣った▼後に、贈り物は「お中元」へと変わり、明治になって書簡が一般的になる。はがきが広く定着したのは大正に入ってから。お世話になっている人への感謝の気持ちを筆に込める。長年受け継がれてきた日本独特の文化である▼もっとも、年始に行き交う賀状に比べれば、ずっと少ない夏のごあいさつ。ネット時代にあって、肉筆も既に少数派だ。中には暑さにかまけて…という方もいよう。真夏に執る筆は往々にして重い▼〈手のわろき人の、はゞからず文書きちらすは、よし〉と、『徒然草』の吉田兼好は言っている。字が下手でもかまわぬから、手紙などを大いに書くのは結構だと。高名な随筆家の励ましは筆無精を自認する人の背中も押してくれる▼暑中見舞いは、立秋を過ぎれば「残暑お見舞い」となる。感染症に翻弄(ほんろう)される夏。相手の顔を思い浮かべて今年は一筆したためてみては。一服の涼しさと、手書きの温かさ。添えるひと言は、その両方を届けてくれる。