天鐘(7月29日)

火球にある多数の気泡がはじける。表面張力の作用で液滴が勢いよく飛び出す。四方八方に散り、連鎖的に分裂し、枝分かれしていく。その軌跡が火花。線香花火を科学的に説明すると、こんな感じらしい▼シャンパンを注ぐとグラスの中で泡と滴が踊る。部分的には.....
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 火球にある多数の気泡がはじける。表面張力の作用で液滴が勢いよく飛び出す。四方八方に散り、連鎖的に分裂し、枝分かれしていく。その軌跡が火花。線香花火を科学的に説明すると、こんな感じらしい▼シャンパンを注ぐとグラスの中で泡と滴が踊る。部分的には同じ原理である。火花が発生・分岐する仕組みが解明されたのは、ほんの数年前のこと。江戸時代から親しまれる夏の風物詩なのに、実は謎が深い▼わらの先に練った火薬を詰め、鉢に立てて観賞したのが始まり。線香と称される由縁となった「すぼ手」は西日本で広まる。和紙を代用に火薬を包んで縒(よ)ったのが「長手」。東日本で人気を呼び、後に主流となった▼生命感がみなぎる「蕾(つぼみ)」、輝きを解き放った「牡丹(ぼたん)」、放散が勢いを増す「松葉」、角が取れて柔らかい「柳」、光の筋が余韻を引く「散り菊」。刻々と移り変わる様は花木に、そして人生に例えられる▼「序破急」があり、「起承転結」があり、詩があり、音楽がある―。戦前の物理学者で随筆家の寺田寅彦は伝統の手花火に魅せられた。侘(わ)び、寂(さ)び。日本人の美意識に根差すが故に時代を超えて心に染みるのだろう▼賛否もあろうが、閉塞(へいそく)感が漂うコロナ禍で「サプライズ花火」は上を向く力をくれた。八戸花火大会は終息を願って5670(コロナゼロ)発。遠くを照らす大輪の華に、手元できらめく小さな華に、想いを寄せる。