新型コロナウイルス感染症対策に追われた通常国会が閉幕した。2度の補正予算で一般歳出の総額は計57兆円超。ただ使途に不透明な部分が多く、会期を年末まで延長し審議を続けるよう野党側が要求したが、政権側は受け入れなかった。[br] 野党が特に問題視したのが、中小事業者を支援する持続化給付金の事業委託だ。政府は一般社団法人サービスデザイン推進協議会に支給事務を769億円で委託したが、大半を電通に再委託、さらに外注も行われた。[br] 安倍晋三首相は答弁で、関係業者が「中抜き」によって利益を得た可能性を否定した。しかし、委託先の選定経過や推進協議会の活動状況は明確にならないまま。他の支援事業でも不明朗な委託費が指摘され、予算執行への疑念が高まった。[br] コロナ対策とともに野党の攻撃材料となったのが、黒川弘務前東京高検検事長を巡る問題だ。訓告処分が軽過ぎるとして見直しを求められても首相らは拒否。黒川氏の退職金は約5900万円に上る。[br] 世論の反発で成立を断念した検察庁法改正案を含め、定年延長のための国家公務員法改正案は廃案となった。検察幹部の「役職定年制」への特例を撤回する方針だが、今後も内閣による検察人事への介入姿勢を取るのか注視が必要だ。[br] 国会閉幕直前、政府は秋田、山口両県への配備を計画してきた地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」に関し、計画停止を発表した。河野太郎防衛相は技術的な問題と費用対効果を理由に挙げたが、見通しの甘さや調査費などの「無駄」は否定し難く、国会での議論活発化を避ける意図もうかがえる。[br] 安倍政権としては、各種世論調査で内閣支持率が急落しているのを踏まえ、国会を閉じた方が得策と考えたのだろう。しかし、コロナ感染症の第2波到来が予想される中、国民への注意喚起のためにも審議を続けるべきだったのではないか。[br] 国会閉幕の“代償”が第2次補正に計上された10兆円の予備費だ。当初予算の予備費の20倍にも上り、憲法に基づく「財政民主主義」への抵触も指摘される。与野党折衝で5兆円分は大枠の使途が示されたが、第3次補正予算案の編成で対応するのが王道だろう。[br] 野党側が早期の臨時国会召集を要求しても、政権が応じる気配は感じられない。このため、予備費の使用を巡る閉会中審査が焦点だが、通常国会で大きな不信感を残しただけに、十分な行政監視態勢の構築を求めたい。