都合の悪い記録は明らかにしない。新型コロナウイルス対策で国民への外出自粛要請などが続く中、安倍政権の積年の病弊をまた思い起こす。[br] 政策の医学的、社会的な根拠は何だったのか。誰もが知りたい事柄だが、安倍晋三首相と限られたメンバーによる連絡会議や専門家会議の議事録など公文書の開示を政府が拒み、検証すらできない状態が続いている。[br] 専門的知見よりも政治判断を優先させたとの疑問が専門家からも出ている。政府はコロナ拡大の全体像が分かる記録の作成と、その公開、保存を進め行政の透明性確保に努めるべきだ。[br] 公文書管理法は公文書を「民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」と位置付ける。首相決定の行政文書管理ガイドラインも、行政の実績を跡付け、検証するよう求めている。政治の都合で勝手に曲げられない。ガイドラインはまた、歴史的緊急事態では記録が「将来の教訓として極めて重要」とし、発言者などを記すことを要請する。[br] しかし今年3月の政府の基本的対処方針では、誰がどのように分析・評価したのか明らかでない。「情報提供・共有」をうたいながら、実践されていない。[br] 政府が新型コロナウイルス感染症を巡る対応を重大な歴史的緊急事態に指定しながら、安倍首相らが事態への対策を議論する連絡会議などを議事録の対象外と軽視した姿勢は矛盾する。逃げ腰に見える。[br] 安倍首相は専門家会議の速記録について保存期間後に原則公表になると国会で答弁した。しかし保存期間後では第2波、第3波が襲来した場合、対応が遅れるのは必至だ。[br] 今こそ、徹底的に論議し、可能な限りの対策を準備しておくべきだ。有効な対策を打つには、今までの経緯を明らかにすることが最優先でなければならない。謙虚な反省も伴ってこそ最善の備えができる。[br] 西村康稔経済再生担当相は保存期間を10年と説明するが、既に決着を見た事案ならばともかく、事態が現在も進行中なのに、議論の中身の公表が10年後では意味がない。[br] 政府内には議事概要を公表し、発言者名を記載するので足りるとする発言もある。けれども政府関係者が整理した議事概要には省略が多い。大事なのは議論の全体像であり、その提示を避けるのは怠慢とも言える。[br] 森友・加計学園、桜を見る会などでも公文書への不誠実な対応が際立っている。政府も与党も自ら政治責任を引き受ける覚悟を示すべきだ。