天鐘(5月17日)

忘れられない夏がある。東日本大震災が起きた2011年。日本中が沈んでいたころだ。混乱は尾を引き、原発事故で節電が叫ばれていた。夏の甲子園はそんな中で始まった▼光星学院(現・八戸学院光星)が快進撃を見せる。はじめは野球どころではなかった人たち.....
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 忘れられない夏がある。東日本大震災が起きた2011年。日本中が沈んでいたころだ。混乱は尾を引き、原発事故で節電が叫ばれていた。夏の甲子園はそんな中で始まった▼光星学院(現・八戸学院光星)が快進撃を見せる。はじめは野球どころではなかった人たちも次第に引き込まれていくのが分かった。大津波に襲われ、漁船が転がった八戸。そんな街の球児たちの頑張りである▼熱く盛り上がった決勝は大敗だった。それでも被災地の夢を背負って戦ってくれたナインに、ふるさとは「ありがとう」と拍手を送った。そして誰もが思ったはずである。「甲子園があって本当によかった」と▼スポーツは時に、何百、何千の政治の言葉より、はるかに人を励まし、勇気をくれる。苦境にあればなおさらだ。その震災の年は「なでしこ」のW杯優勝の歓喜もあった。昨年のラグビー日本代表にも奮い立った▼今年の夏の甲子園が中止されそうだと報じられている。聖地にすむ魔物も、野球の神様も感染症の前には力が及ばぬか。球児の心境を思えば言葉もないが、ぽっかりと胸に穴が開いた気分のファンも多かろう▼〈雲は湧き、光あふれて―〉。開会式で出場校が一斉に前進するときは若者たちの希望ある未来を重ねていつも胸が熱くなる。こんな時だからこそ見たい白熱の一投一打がある。あの金属音も大歓声もない―そんな8月は寂しすぎる。