天鐘(5月12日)

♪りんごのふるさとは北国の果て―美空ひばりさんが歌った『津軽のふるさと』(作詞・作曲 米山正夫)。ひばりさんが持ち歌の中で最も愛してやまなかった曲だったらしいが、北国は今リンゴの白い花でいっぱいだ▼この曲を聴く度、故郷ではないが、岩木山麓に.....
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 ♪りんごのふるさとは北国の果て―美空ひばりさんが歌った『津軽のふるさと』(作詞・作曲 米山正夫)。ひばりさんが持ち歌の中で最も愛してやまなかった曲だったらしいが、北国は今リンゴの白い花でいっぱいだ▼この曲を聴く度、故郷ではないが、岩木山麓に霞(かすみ)か靄(もや)のように咲き誇るリンゴの花が目に浮かぶ。素朴で長閑(のどか)で静謐(せいひつ)なる故郷。お岩木山もいいが名久井岳の裾野もリンゴとサクランボの白い花々がよく似合う▼〈みちのくの山たたなはる(畳なわる)花林檎(りんご)〉。明治から昭和にかけて俳誌「ホトトギス」を先導した盛岡出身の山口青邨(せいそん)(東大名誉教授)は、故郷の岩手山や早池峰(はやちね)山の麓に棚引くように咲く白い花を愛した▼名久井岳の山麓を車で通りかかったら、白いリンゴとサクランボに薄紅色のモモが今を盛りと咲いていた。ちょうどリンゴの受粉の最盛期だという。白と薄紅色の和やかな競演に息をのんで見入ってしまった▼昨年2月、日本人として亡くなった文芸評論家のドナルド・キーンさんは弘前を訪れた際、リンゴの絵葉書が欲しくて探し歩いたが見つからなかった。日本一のリンゴの産地でも「花は桜」と納得していたという▼その主役も今年は愛でられることもなく葉桜になってしまった。後ろめたさも残るが、コロナの脅威も凄まじい。リンゴの花々を遠望し、萎縮しっ放しの心と身に一息つかせてあげたい。