天鐘(4月21日)

「人間の中には軽蔑すべきものより讃美すべきものの方が多い」。仏国の作家アルベール・カミュは、代表作『ペスト』の最終場面で主人公の医師にこう語らせている▼都市が封鎖され、打つ手が全て失敗。後手に回る行政と、現実から逃避する市民。極限状態の中で.....
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 「人間の中には軽蔑すべきものより讃美すべきものの方が多い」。仏国の作家アルベール・カミュは、代表作『ペスト』の最終場面で主人公の医師にこう語らせている▼都市が封鎖され、打つ手が全て失敗。後手に回る行政と、現実から逃避する市民。極限状態の中で罪なき人々が次々死んでいく。73年前、ペスト禍の「不条理」を描いた作品だが、今また読まれているという▼災禍は不信や裏切りの悲劇を生み、多くの命を奪って終息した。迫る不条理といかに向かい合うか―。小説はその自問に「我々には人と人を繋ぐ連帯意識など、讃美すべき尊厳がたくさんある」と自答して終わる▼作品はコロナ禍に重ねて読まれているのだろう。ペストは9カ月で終息するがコロナ戦はまだ序盤。だが、既に先手か後手かの行政手腕が明暗を分けている。致死率10%台の欧州の中で、独国だけが2%台だ▼「国境封鎖は絶対必要な時にのみ正当化される。それは今、命を救うために不可欠なのです」。メルケル首相の心からの演説はゲルマン魂を揺さぶった。最後に「会えなくなる人にはメールを」と心配りも添えた▼不条理に対抗できるのは誠実や連帯という人間の尊厳だという。“モリカケに桜”で培った言葉遊びにツイート感覚。小説に重なるのではと安倍政権の行方に不安が募る。いずれ人間の尊厳を賭けた激闘になることは避けられそうもない。