天鐘(3月30日)

鎌倉時代、鴨長明(かものちょうめい)が記した『方丈記』。地震や大火など五つの厄災が綴られている。800年も前の“災害ルポ”だが、被災の度に引き合いにされ、透徹した無常観に感動させられる▼旋風つむじかぜや飢饉ききんも相次いだ。5厄災で異質なの.....
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 鎌倉時代、鴨長明(かものちょうめい)が記した『方丈記』。地震や大火など五つの厄災が綴られている。800年も前の“災害ルポ”だが、被災の度に引き合いにされ、透徹した無常観に感動させられる▼旋風つむじかぜや飢饉ききんも相次いだ。5厄災で異質なのは「遷都」。400年続く京を捨て、兵庫県北部の福原への“首都移転”である。平清盛が宋との貿易を拡大する私欲のためとされ、一門からも総スカンを食らった▼NHKのBSプレミアム『偉人たちの健康診断』の平清盛編を見た。京は糞尿が垂れ流しで天然痘や赤痢が蔓延。清盛は嫡男重盛を病で失い、ついに清水に恵まれた福原への遷都で疫病との決別を決心した―との説▼だが、志半ばで源氏に平家追討が命ぜられ、遷都も頓挫する。芥川龍之介の『羅生門』はこの荒廃した平安末期の都が舞台だ。奈良期にも厄災が続き、遷都を繰り返した聖武天皇は“引っ越し魔”と呼ばれた▼昔は汚れた都を捨て、無垢(むく)の地で再出発できた。だが、今の新型コロナウイルスは人に宿って地球上のどこへでも追って来る。動きを止めない限り感染は拡大する一方だ▼宿主である人間の活動をこれほど制限させるとは恐ろしい変異である。「恐るるに足らず」と公言していた専門家達は姿をくらました。今日は『方丈記』が書き上げられた日。ウイルスが蔓延し、自然災害も巨大化している。往時とどこか似て末法の無常観さえ漂う。