時評(3月29日)

大規模災害時の活用を想定した、「病院船」を巡る議論が加速している。導入を目指す国会の超党派議員連盟が発足し、船舶による医療体制の整備を国に義務付ける法案を議員立法で提出する。新型コロナウイルスをはじめとする感染症対策も見据え、閣僚からは検討.....
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 大規模災害時の活用を想定した、「病院船」を巡る議論が加速している。導入を目指す国会の超党派議員連盟が発足し、船舶による医療体制の整備を国に義務付ける法案を議員立法で提出する。新型コロナウイルスをはじめとする感染症対策も見据え、閣僚からは検討に前向きな声が出始めた。[br] 頻発する災害は激甚化の傾向にある。建造や維持管理のコストなど検討課題は多いものの、東日本大震災を経験した北奥羽地方にとっても注目に値する策ではないか。[br] 日本では過去にも、阪神・淡路大震災などを契機に病院船を求める声が高まった。特に9年前の震災では岩手、宮城、福島の3県で8割近い300カ所の病院が被災。巨大津波によって道路も寸断され、医療はまひ状態に陥った。「現状のままでは同じ事態を繰り返す」との懸念は根強い。[br] もし船舶を展開できれば、被災地に横付けして傷病者の迅速な治療が可能となり、被災者の避難場所や自治体の災害対策支援にも充てられる。感染症対策としても、船という特長を生かして患者を隔離し、集中的な処置を施せるという。クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」での集団感染を踏まえ、加藤勝信厚生労働相は「配備の在り方を加速的に検討していく必要がある」との見解を示している。[br] 国会では与党議連が6年前から導入に関する検討を進め、2月からは主要野党も加わった超党派の枠組みで議論が始まった。今国会にも法案を提出したい考えだが、病院船の導入にはコスト面だけでも高いハードルが立ちはだかる。[br] 内閣府が2013年にまとめた報告書によると、建造には1隻当たり140億~350億円、年間の維持費だけで9~25億円が見込まれる。有事に即応するには2隻が必要とされ、この財源を現実的に捻出できるかが鍵となる。[br] 報告書は他にも、人材確保や平時の活用などを課題に挙げた。まずはこれらを解決する道筋を示すことが求められる。議連では費用圧縮に向けた中古船改造、有事以外の運用として人道支援や島しょ部の医療支援も検討するという。[br] 国内では首都直下地震や南海トラフ地震の発生により、甚大な被害が懸念されている。地震常襲地帯の青森県南、岩手県北地方にとっても対岸の火事ではない。病院船は国民負担に見合った「備え」になり得るのか。走りだした議論の推移を注視したい。