愛知県で実の娘に性的暴行を加えたとして、準強制性交罪に問われた父親の控訴審判決で、名古屋高裁は一審の無罪判決を破棄し、懲役10年の逆転有罪を言い渡した。[br] 性暴力を巡っては、市民感覚では犯罪と見える事件でも裁判所の判断によって無罪とされる例も多く、法制度の「欠陥」として批判されていた。[br] 高裁判決は刑法が準強制性交罪の要件とする「被害者が抵抗できない状態」だったかどうかを詳細に分析し、被告の父親の犯行を認定しており、妥当な判断といえる。しかし法制度の問題点は残されたままだ。人の尊厳を踏みにじる性暴力の被害をなくすためにも、国会や法曹界は刑法の改正や運用見直しに向け議論を急ぐ必要がある。[br] 被告は2017年、当時19歳の娘に性的暴行を繰り返したとして起訴された。一審の名古屋地裁岡崎支部は昨年3月、被告が被害者に性的虐待を続けた事実や、被害者の意に反した性交と認定したものの、拒んだ時期もあったことなどから、準強制性交罪が成立する「拒否できない状態」とまではいえなかったとして無罪とした。[br] これに対し名古屋高裁は、被害者が性的虐待を長年受けた上、被告に金銭的な負い目も感じていた点など複合的要因から抵抗できない心理状態だったと認定、被告の卑劣な犯行と結論付けた。[br] 17年の刑法改正で、強姦ごうかん罪を男性の被害者も含む強制性交罪に名称変更し、罰則も強化された。だが強制性交罪などの成立には「暴行・脅迫を用いる」ことや被害者の抵抗が著しく困難な状態が必要条件とされ、昨年は岡崎支部のほか女性に対する性犯罪事件で無罪判決が相次いだ。密室での事例が多い犯罪だけに、立証へのハードルが高すぎるのではないか。[br] 性暴力被害者や研究者らは職場、家庭での心理的、経済的な従属関係や暴力への恐怖心などから、被害者は不同意でも拒否しきれないのが実態と強調する。被害の訴えに対し不起訴や無罪とされた事件でも、民事訴訟では被害者の主張を認める例もあり、刑事司法への不信感を募らせている。暴行、脅迫の態様・程度や被害者が抵抗できない状況を、実態に認定するような法運用の再検討、不同意性交を罰する規定整備を進めるべきだ。[br] 国際女性デーの8日、日本や各国で性暴力の撲滅を訴え、被害者を十分守れない司法制度に抗議する声が上がった。社会全体で問題の深刻さを認識することが不可欠だ。