天鐘(3月8日)

防潮堤の巨大な灰色の壁が延々と続く。まるで視界にシャッターを下ろされたような光景。岩手県沿岸を車で走ると、海がほとんど見えない。陸と海を遮断する防潮堤の高さが、あの津波被害のすさまじさを改めて物語る▼東日本大震災から9年。被災地では今も復旧.....
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 防潮堤の巨大な灰色の壁が延々と続く。まるで視界にシャッターを下ろされたような光景。岩手県沿岸を車で走ると、海がほとんど見えない。陸と海を遮断する防潮堤の高さが、あの津波被害のすさまじさを改めて物語る▼東日本大震災から9年。被災地では今も復旧工事中。以前の町の面影は消えてしまったが、かさ上げして区画整理された土地には、新しい住宅が所々に建つ。小さいながらも、何軒かの商店は営業を再開▼一見すれば、被災地は少しずつ「前に進んでいる」ように映る。確かにハード面の復興は進んだよう。ただし中に入っていくと、いくつもの癒えない“傷痕”と出合う▼土地は整備されたとはえ、未利用の空き地が目立つ。店舗を再建できた人もいれば、仮設施設で営業を続ける人、断念して廃業した人も。事情はそれぞれで複雑だ。飲食店を営む店主が吐露した。「心はまだ復興半ば」▼むしろ、9年たって感じるのは「格差」だという。再建資金の有無による経済格差、そして地域間格差である。全国では観光客が急増している都道府県がある一方で、被災地は震災前から減少したまま▼被災地への関心が一層薄れるのではないか。取り残されそうな不安が増している。「壁」には脅威から守ってくれる壁もあれば、相手が見えなくなる壁もある。被災者との間に壁が出来ないよう、どんな形でもつながりを持ち続けたい。