【連載・コロナと共に~変わる価値観~】(3)「農業」

オンライン取材で食料安全保障の重要性を訴える鈴木誠氏
オンライン取材で食料安全保障の重要性を訴える鈴木誠氏
世界規模で流行する新型コロナウイルスは、日本も含め世界中の農業生産や流通に影響を与え始めている。近年、地球温暖化による豪雨など大規模災害も各地で起きており、新型コロナの問題が長引けば、さらなる悪影響を及ぼす可能性もある。この難局をどう乗り越.....
有料会員に登録すれば記事全文をお読みになれます。デーリー東北のご購読者は無料で会員登録できます。
ログインの方はこちら
新規会員登録の方はこちら
お気に入り登録
週間記事ランキング
 世界規模で流行する新型コロナウイルスは、日本も含め世界中の農業生産や流通に影響を与え始めている。近年、地球温暖化による豪雨など大規模災害も各地で起きており、新型コロナの問題が長引けば、さらなる悪影響を及ぼす可能性もある。この難局をどう乗り越えていくべきか。農業コンサルのナチュラルアート(東京)の鈴木誠代表(54)に聞いた。[br][br] ―コロナ禍で顕在化した問題は。[br] 農業や流通業界は相場の波に慣れているが、新型コロナは出口が見えない。一部の国が農産物の輸出規制に動き、既に食料を巡る問題が起こっているが、日本では食料パニックは起きておらず、農家はおおむね従来の生産活動を続けている。農業や卸売りを含めた流通事業が、改めて社会のインフラとして重要な存在だと再認識された。[br] だが、将来的には世界的な食料危機に巻き込まれる可能性がある。日本の食料自給率はカロリーベースで約38%と、半分以上は海外が支えている。コロナは海外の農場にも深刻な影響を及ぼしており、輸入に影響が出ることも考えられる。[br] コロナ以前から毎年のように豪雨災害が発生し、その度に農場が減る状況だった。現在もコロナや大雨被害の影響で、青果物の価格は高い。今はあくまで一過性のものだが、この先、過去に比べて高い状態が続いていく可能性がある。[br] 国内農業が今以上に衰退し、海外からの輸入物も縮小すれば、食料危機や食料インフレはひとごとでなくなる。厳しく言えば、日本の食料安全保障は悪い方向に進んでおり、既に食料インフレの入り口に立っている状況と認識すべきだ。[br] ―農政をどう変えていくべきか。[br] これまで食料の安全保障問題や農業衰退に警鐘を鳴らしてきたが、国の危機感が十分だったとは思えない。人間は本当に追い込まれないと変わらない。皮肉なことだが、コロナ禍は農業や経済が生まれ変わる転換点になると捉えている。[br] 海外では日本よりはるかに高いレベルで農家に補助金が支給されており、スイスでは年収の8、9割が補助金というほどだ。「農家は国を支える“準公務員”のような存在」という考えに基づいており、日本でも食を下支えする農業に対して意識改革が必要だ。[br] ―農業の強化には何が必要か。[br] 本質的には農協に頑張ってほしいが、現状では農家の衰退が農協組織の衰退を招く悪循環に陥っている。[br] 一つの鍵を握るのが、卸売市場だ。全国では年間約3兆5千億円の青果物が生産され、約80%が卸売市場を経由して取引されている。市場の大きな役割は、価格を決めること。市場が高値を付ければ農家がもうかり、もうかる農家には後継者が育つ。[br] 農業の強化には生産から流通、加工までを一体化した新たなバリューチェーン(価値の連鎖)が必要で、生産現場と卸売市場の一体的な改革が不可欠だ。[br] 農業は必ずしも衰退の一途をたどっているわけではない。農家戸数や耕作面積、生産量は落ち込んでいるが、生産金額は横ばいで、大規模な経営体が力を付けている。今回のコロナ禍によって、社会全体も大きな転換点に立たされている。[br](※オンラインによるリモート取材を実施)オンライン取材で食料安全保障の重要性を訴える鈴木誠氏