創業44年老舗バー「とり舵亭」閉店へ/海、音楽、自然を愛したマスター逝去から1年余り、妻の榮子さん「ボロボロになる前に」

マスター、ママ、ありがとう―。バー「とり舵亭」で感謝を込めてライブを行うグラスピッカーズのメンバーら=19日、八戸市六日町
マスター、ママ、ありがとう―。バー「とり舵亭」で感謝を込めてライブを行うグラスピッカーズのメンバーら=19日、八戸市六日町
八戸市六日町の男山ビル地下1階の老舗バー「とり舵亭」が31日で閉店する。種差海岸の環境保全に取り組む市民団体「はちのへ小さな浜の会」事務局長だった、マスターの中里榮久壽(えくじゅ)さん=享年(77)=が昨年3月に亡くなってから、妻の榮子さん.....
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 八戸市六日町の男山ビル地下1階の老舗バー「とり舵亭」が31日で閉店する。種差海岸の環境保全に取り組む市民団体「はちのへ小さな浜の会」事務局長だった、マスターの中里榮久壽(えくじゅ)さん=享年(77)=が昨年3月に亡くなってから、妻の榮子さん(77)が一人で切り盛りしてきた。海や音楽を愛したマスターと客たちが趣味の話にふけるのが、なじみの光景だった。榮子さんは「まだ体は元気。でもボロボロになる前に辞めたい」とたくさんの思い出を胸に、惜しまれつつ44年の歴史に別れを告げる。[br] 1976年、同市類家縄手下(現吹上1丁目)にあった「南部タウン」で開店。店名は地元出身の榮久壽さんが、遠洋漁業の大型船で働いたことが由来だ。店内には操舵(そうだ)輪や世界の古地図、各国のアンティークが並び、異国情緒と落ち着いた雰囲気の中で客たちが時間を忘れ杯を交わした。人情に厚い語り口の榮久壽さんと、てきぱきと仕事をこなす榮子さん夫妻の人柄も親しまれた。[br] スナックやバーがひしめいた南部タウンだったが、映画館が閉鎖された2001年ごろからテナントが次々と撤退。とり舵亭も06年に現在地に移転した。[br] 近隣の常連客のほか、作家の三浦哲郎さんや東理夫さん、シンセサイザー奏者の喜多郎さんなど著名人も訪れた。イラストレーターの沢野ひとしさん(75)もその一人。「今秋出す本にマスターのことを書いたばかり。閉店は寂しい」と惜しむ。[br] 海を愛し、自然を愛した榮久壽さん。とりわけ心を寄せたのが種差海岸だ。海岸を見渡せる「浜小屋」に寝泊まりし、海を眺めるのが日課だった。[br] 体調の異変を感じたのは18年ごろ。息が上がり、数十段の階段すら登れなくなった。病院嫌いだったが、ついに検査を受けた。診断は末期の肝臓がん。数度の手術を経て、一時は店に立つまで回復したが、翌年に帰らぬ人となった。[br] カントリー音楽も好きだった。月に一度はバンドに店を貸した。三沢基地を中心に活動し結成30年を迎えるカントリーバンド「グラスピッカーズ」も世話になったグループ。今月19日には、メンバーらが同店で“ラストライブ”を行った。[br] ボーカルの古川洋一さん(66)は「一緒に酒を飲んだり、浜小屋で海をバックに演奏させてもらったりと思い出は尽きない」と声を詰まらせた。[br] 榮子さんは「(マスターは)わがままな人だったから、たくさん迷惑したけど、楽しい44年間だった」としみじみ。「店をやっていなかったら会えなかった人たちと出会えたことが誇り」と縁に感謝した。マスター、ママ、ありがとう―。バー「とり舵亭」で感謝を込めてライブを行うグラスピッカーズのメンバーら=19日、八戸市六日町