【連載・羽ばたけジュノハート①】勝負の年、困難乗り越え

仕上げの葉摘み作業に励む留目秀樹さん=22日、南部町
仕上げの葉摘み作業に励む留目秀樹さん=22日、南部町
22日午後、南部町大向のサクランボ園で、農業の留目秀樹さん(57)は、青森県独自品種「ジュノハート」の色づきを促す仕上げの葉摘み作業に精を出していた。つややかな大玉を見つめる表情は穏やかだが、ここに至る道のりは平たんではなかった。 県内で唯.....
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 22日午後、南部町大向のサクランボ園で、農業の留目秀樹さん(57)は、青森県独自品種「ジュノハート」の色づきを促す仕上げの葉摘み作業に精を出していた。つややかな大玉を見つめる表情は穏やかだが、ここに至る道のりは平たんではなかった。[br] 県内で唯一、サクランボの温室栽培を手掛けている。誰よりも早く出荷するだけに経済動向には敏感で、中国が初の新型コロナウイルス感染を報告した昨年12月、既に「リーマンショックより大変な不況になるのでは」と危機を感じ取っていた。[br] 予感は的中した。国内でも感染がどんどん広がり、日本中が不穏な空気に覆われた。東京などに出ていた緊急事態宣言の対象が全国に拡大されたのは4月16日。ちょうど温室サクランボの出荷が本格化する時期だった。 品質にこだわって栽培した最上級品は通常、化粧箱に並べて出荷するが、高級果実を扱う果実店や百貨店の休業で行き場を失った。やむを得ず、量販店向けの小分けパックで出荷したが、「はっきり言えば格下げ。どん底からのスタートだった」と振り返る。[br] さらに同じころ、強い低温と霜が同町をはじめとする三八地域の果樹地帯を襲った。同17日の三戸の最低気温はマイナス3・3度。町内ではつぼみなどがダメージを受け、大きく収穫量を減らした園地もある。留目さんは防霜ファンでしのいだものの、地表に近い枝を中心に被害を受け、着果率は平年から2割ほど落ちた。[br] コロナ禍に霜害と、度重なる困難に見舞われ、「正直、今年の全国デビューは難しいかな、と諦めムードだった」と留目さん。毎年、積極的に引き受けてきた報道各社の取材対応も、「先が見通せないので今年だけは…」と断った。[br] 困難な状況が続いたが、高品質を追い求める意欲が低下することはなかった。ジュノハートに必要な休眠期間はどのくらいか、相性の良い受粉樹は何か、どうしたらハートの形が強く出るのか―。湧き出る探究心に突き動かされるように、一日も休まず園地に足を運び、作業に励んだ。[br] 感染の勢いはある程度収まり、全国の緊急事態宣言は5月25日に解除された。心配された全国デビューも予定通り行われる見通しとなり、今は胸をなでおろしている。「ジュノハートは将来、主役になりうる品種。デビューを成功させ、若い人が栽培を始められるようになれば」と期待を込めた。[br] 7月1日、ジュノハートがいよいよ全国デビューする。新型コロナや天候不良に見舞われながら、無事に晴れの日を迎える見通しとなった背景には、生産者やサポートする行政関係者の情熱と努力があった。それぞれが困難に立ち向かいながら奮闘する姿を追った。仕上げの葉摘み作業に励む留目秀樹さん=22日、南部町