【震災9年】文献や遺物、災害から守る “文化財レスキュー”片岡さん

災害に備えて文化財を管理することの重要性を説く片岡太郎さん=2月、弘前大
災害に備えて文化財を管理することの重要性を説く片岡太郎さん=2月、弘前大
2011年3月11日に発生した東日本大震災では地震や津波などで多くの文化財が被害に遭った。被災地の文化財を救うために作られたのが、博物館や大学などで組織する「被災文化財等救援委員会」。北奥羽で最も被害が大きかった野田村などで“文化財レスキュ.....
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 2011年3月11日に発生した東日本大震災では地震や津波などで多くの文化財が被害に遭った。被災地の文化財を救うために作られたのが、博物館や大学などで組織する「被災文化財等救援委員会」。北奥羽で最も被害が大きかった野田村などで“文化財レスキュー”に携わった弘前大専任講師の片岡太郎さん(40)は「文化財は人にとって大切なものの一形態」と地道な活動の必要性を語る。[br] 「古文書が塩をかぶってしまった」。片岡さんがレスキューに携わり始めたのは震災翌年の1月。野田村で文化財を個人所有していた人から相談を受け、現地へ向かった。岩手県や宮城県を回る中で最も多かったのが、古文書や土器、鉄製品が塩水や泥をかぶる津波による被害だったという。[br] レスキューは主に▽救出▽応急処置▽本格修復―の3段階で行われる。津波で流されたものや、水が掛かったり、汚れたりして廃棄されてしまいそうなものを一時的に保管するのが「救出」。「応急処置」でぬれた古文書などを乾燥させるなどし、「本格修復」で各分野の専門家がより細かい処理を施す。[br] 考古史料の保存を専門とする片岡さんが担当したのは、主に古文書などの応急処置。被災した文化財を集め、現地で処理しきれないものは大学に持ち帰った。ぬれたままの状態だとカビが生える危険があるため、海水をかぶった古文書を真水に浸して塩を抜く、段ボールに挟んで乾燥させるなど、ボランティアを募って処置に当たった。[br] 活動を通して痛感したのは、生活の余裕がなければ文化財レスキューはできないということ。文化財を探すだけでも人手や資材が必要。「人命優先は当然。文化財だけ救出すればいいわけではない」(片岡さん)。それでも、被災地で自分の生活がままならない中で、文化財の救出や修復を手伝ってくれる人もいた。[br] なぜ文化財を救う必要があるのか。学術的価値はもちろん、昔の人が残した道具や伝統芸能は、人々がその土地で暮らしていたこと、喜怒哀楽が確かめられるもの。形あるものも、ないものも、人の暮らしを残しているものだ―という。[br] 災害によって伝える人がいなくなり、消える祭りもある。国や県などが管理する指定文化財と異なり、個人所有の文化財は流出すると存在していたかどうかすら分からなくなる。[br] 人知れず消滅する文化財を守るため、全国各地で整備が進められるのが、史料の所在や保存状況の調査などを行う「歴史資料ネットワーク」。さらに文化財レスキュー事業を基盤として「文化財防災ネットワーク」が14年にスタートし、今年2月には災害発生時の文化財救出のガイドラインも策定された。文化財を保存、修復する技術を学生に伝える活動も行われている。[br] 博物館などでも災害対策は進む。青森市の三内丸山遺跡センターでは、展示されている土器のうち倒れやすいものに免震台を使用。18年に完成し、段ボール4万箱以上の出土品が収められている収蔵庫も耐震構造で、棚から出土品が落ちない工夫もされている。[br] 昨年は台風による豪雨被害、ノートルダム大聖堂(フランス)や首里城(沖縄県)の火災などが相次ぎ、文化財の保存や管理への意識は高まりつつあるという。片岡さんは「自然災害が発生する前にどう対策するか、全て含めて文化財レスキューだ」と強調している。災害に備えて文化財を管理することの重要性を説く片岡太郎さん=2月、弘前大