王座防衛し引退、万感 総合格闘家・前澤さん(八戸出身)

2度目の王座防衛戦に勝利し、花束を抱えて引退セレモニーに臨む前澤智さん=10月31日、東京(本人提供)
2度目の王座防衛戦に勝利し、花束を抱えて引退セレモニーに臨む前澤智さん=10月31日、東京(本人提供)
八戸市出身の総合格闘家・前澤智さん(32)が、チャンピオンベルトを巻いたまま現役を引退した。10月31日に東京都内で行われた女子総合格闘技団体「DEEP JEWELS(ディープジュエルス)」の大会に出場し、2度目の王座防衛戦がラストマッチ。.....
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 八戸市出身の総合格闘家・前澤智さん(32)が、チャンピオンベルトを巻いたまま現役を引退した。10月31日に東京都内で行われた女子総合格闘技団体「DEEP JEWELS(ディープジュエルス)」の大会に出場し、2度目の王座防衛戦がラストマッチ。劇的勝利で有終の美を飾った女王は、花束を抱えてリングを降りた。「自分が納得できるまで」と心に決めた格闘技への挑戦は一区切り。「これからは誰かの人生を“セコンド”として応援していきたい」。約8年間のプロ生活に別れを告げ、新たな一歩を踏み出した。[br][br] 前澤さんのプロデビューは2012年9月。学生時代に没頭した柔道を礎に、総合格闘技の腕を磨いた。当時は葬祭業「八田グループ」(同市)に勤めていたが、退職して16年に上京。「リバーサルジム立川ALPHA」に所属し、本格的にプロの道を歩んだ。[br][br] 主戦場はDEEP JEWELSのアトム級(体重47・6キロ以下)。18年12月に同級王座のタイトルマッチに挑み、難敵を下してチャンピオンベルトを奪取。第6代王者となり、19年10月には初防衛に成功した。[br][br] だが、その後に新型コロナウイルスの影響が格闘技界にも広がった。通常の興行は困難で、2度目の防衛戦は中止。プロとして「モチベーションを保つのが大変だった」と苦悩した。[br][br] 今年結婚した夫の存在も自身に変化を与えた。「今までは『死んでもいい』という覚悟で格闘技に向き合ってきた。でも、リングに上がることよりも大事なものができて、『生きていたい』という気持ちが芽生えた」。次戦での現役引退を決断。「強いままで、チャンピオンのままで引退したい」と、自分の美学を貫くためにも最後の舞台は王座を懸けた一戦にした。[br][br] 迎えたラストマッチは大会のメインイベント。レスリングの全日本社会人選手権で優勝経験がある青野ひかる選手の挑戦を受けた。試合は前澤さんの劣勢が続いたが、最終3ラウンドに渾身(こんしん)のフロントチョークで逆転勝ち。ゴングが鳴った瞬間、万感の思いが駆け巡り、自然に涙があふれた。[br][br] プロの戦績は25戦14勝11敗。国内最高峰の格闘技大会「RIZIN」のリングにも2度立った。「引退試合に勝てたのは、格闘技の神様が最後にプレゼントをくれたのかな」と笑う。[br][br] 今後については「また格闘技に携わるか、別の生き方を見つけるか、ゆっくり考えたい」と真っさらな状態。一方で、「自分中心に生きるのは十分。今はパートナーもいる。これからは誰かの人生を“セコンド”として応援したい」とも。[br][br] 王者のまま、引退の10カウントゴングを聞く選手はまれだ。前澤さんのそばにはファンやジム関係者、心配しながらも背中を押してくれる家族や友人がいた。そして、5年前に急逝した父の「好きなことをして生きろ」という言葉に支えられた格闘技人生だった。[br][br] 「自分にとって総合格闘技は『生きている』ことを表現する競技。応援してくれた地元の方々にも感謝の気持ちでいっぱい。今はやり切った思いです」。一つ目のピリオドの先に、次の明るい未来が待っている。2度目の王座防衛戦に勝利し、花束を抱えて引退セレモニーに臨む前澤智さん=10月31日、東京(本人提供)